「骨盤矯正」それは接骨院、整体、ジムなどのキャッチコピーではよく見かけるワードであり、テレビや雑誌、SNSでも多く取り上げられますし、実際に骨盤矯正グッズなんかも販売されたりと、その影響力は膨大で当たり前に世間に浸透していることと思います。
それだけ反射的に骨盤矯正=関心が強い=売上増といった式は成立しています。
- 自律神経が整う
- ダイエット効果
- 姿勢改善効果
- 腰痛、肩こり改善
- 下半身太り解消
など、消費者の弱みにつけこみ、お金になりそうな効果性を謳うものまで現れるようにとなりました。
そんな当たり前が故に「骨盤矯正」とは実際に何を施しているのか?
はたまたどのような理論なのか、考えたこと、疑ったことがありますでしょうか?
当記事では「骨盤矯正」が
- どのようなものなのか?
- 実際に効果はあるか?
- 正当性はあるのか?
こういった擬者に対して考察、言及していこうと思います。
※前提として決して骨盤矯正という施術を真っ向から否定しているわけではなく、骨盤矯正支持者の意見を聞き入るとどうしても”確証バイアス”として捉えてしまっていることが多く、骨盤矯正のいいところしか興味を示さず、悪いところ、疑うことをしなくなる傾向が強いと感じること、そして骨盤矯正という理論的に曖昧な施術に対して高額な投資をしてしまっている一般の方が多く、正しく理解した上でお金を使ってほしい、そのような想いもあり、今回の投稿に至っております。
そもそも骨盤矯正の定義とは?
まず骨盤矯正を語る上で実際にどんな施術なのか?
というものを考えていかなくてはなりませんが、考える必要があるということは、そもそも骨盤矯正の定義そのものが存在していないことを指します。
どう言うわけか、それはそもそも骨盤矯正という医学用語が存在しないからです。
事実、骨盤矯正はこんなにも当たり前に世間に溶け込んでいるにも関わらず、骨盤矯正を研究する人が一人たりともできていないのです。
医学用語にもないことを研究する価値がないということでしょうか?
いうならば、「骨盤矯正やってます」「骨盤矯正できます」と誰でも言えちゃうということになります…。
定義が存在しないということは、骨盤矯正を適切な評価できないことにもなりますし、あらゆる骨盤矯正の批判を避けることが可能になります。
例)
「うちの骨盤矯正は他とは違う」
「理論を超えたものがある、実際に効果が出ている」など
骨盤矯正は一般的に、”骨盤の歪み”を修正するために使われることが多く、”骨盤矯正=骨盤の歪み”と謳われているものと認識しています。
定義なくして議論は生まれませんので、ここでは”骨盤矯正=骨盤の歪みを整える”として話を進めていきます。
骨盤の歪みとは、「骨盤の関節部で骨と骨の位置関係が本来の位置からズレること」と言われていることが多いです。
しかしさらに問題となるのが、
”骨盤の歪み”という医学用語もまた存在しません。
骨盤とは、とても強固な組織で固められており歪むという考え方そのものが存在しません
つまり、前提として「骨盤矯正という医学的に存在しないものに対して医学的に存在しないことを行う行為」ということになります。
骨盤矯正の評価の信頼性
骨盤矯正をするということは、骨盤の歪みを評価しなくては話になりません。
しかし、、、
骨盤の歪みを検査することの正確性に疑問が生じます。
骨盤の歪みとは、
「骨と骨の位置関係が本来の位置関係からズレること」
としましたが、骨盤の歪みの評価法で多用される手段は
- 骨盤を触診、左右差、ASIAーPSIS角の検査法
- 脚長差を評価(主に仰臥位)
となります。
これらの検査、評価が例え陽性であっても、医学的、整形外科的なテストはどのくらいの感度・特異度、その精度が数値化されています。
検査が陽性であっても陰性であってもそれをそのまま鵜呑みにすることはないのが通常です。
「骨盤の検査の精度で言えばどうでしょうか?」
結論、どれも信頼するには値しないかもしれません。
骨盤の左右差の検査で言えば、”前提に骨盤が左右対称”でないと成立しないのですが、骨盤は左右差があるものとされています。
誰であっても、骨盤の角度には平均14ミリの差が確認され、30の骨盤を対象にした研究では、最大23ミリの差が確認されています。1)
これらを踏まえると、骨盤の左右差があってもそれは正常の範囲内であることがわかります。
※検査で左右差を確認し、正常であるはずの骨盤を左右差があるものと認識しアプローチするということは、骨盤矯正支持者の意見に乗っかれば、ずらしているわけですから症状は悪化しなければ辻褄が合いません。
しかし、骨盤矯正で悪化するといった報告は数件程度でごく稀です。
それは骨盤は人の手で動かすことがほぼ不可能だからです。
さらに骨盤は皮膚、筋、皮下脂肪、など多くの組織が重なり合っているため、触診の精度も人によっては個人差があり、統合的に精度を疑わざるを得ません。
ましてや骨盤ほど強固な組織は人の手では簡単には動きません。
※簡単に動かせるとしたら、スポーツ動作やジャンプ動作など、その度に大きな外力は骨盤に加わりますので我々の骨盤は原型を留めていないでしょう。
それでは骨盤の脚長差の検査についても考察していきましょう。
これも上記と同様に人間の脚長差が左右差がないことが前提とした検査となりますが、、、
実際では、平均5.2ミリの左右差が報告2)されており、精度はここでも疑ってしまいますね。
仰向けになれば臀部が床と接触するわけですし、臀部の厚み次第ではもろに脚長差に直結します。
そして骨盤の前後傾もASIAーPSISの値の範囲が0〜23度で、平均値は13度、標準偏差は5度3)、つまり触診で骨盤の歪みはわかりません。
また、24時間の平均腰椎前弯は立位時のもっとも高い測定値と大きく異なる4)といった文献や、立位時の仙骨の向きと腰椎の前弯は非常に変わりやすく、個人差があるといった報告5)も見られ、骨盤とは、日内変動や個人差も大きいため、その評価そのものを懐疑的に捉えていく必要がありそうです。
<参考文献>
1)Preece SJ, Willan P, Nester CJ, Graham-Smith P, Herrington L, Bowker P. Variation in pelvic morphologmay prevent the identification of anterior pelvic tilt. J Man Manip Ther. 2008;16(2):113-7.
2)
3)Preece SJ, Willan P, Nester CJ, Graham-Smith P, Herrington L, Bowker P. Variation in pelvic morphology may prevent the identification of anterior pelvic tilt. J Man Manip Ther. 2008;16(2):113-7.
4)Differences between clinical “snap-shot” and “real-life” assessments of lumbar spine alignment and motion-What is the “real” lumbar lordosis of a human being?
5)Schmidt H, Bashkuev M, Weerts J, Graichen F, Altenscheidt J, Maier C, Reitmaier S. How do we stand? Variations during repeated standing phases of asymptomatic subjects and low back pain patients. J Biomech. 2018 Mar 21;70:67-76.