痛みは多面的な要素をもち、痛みそのものにもいくつかに分類することがされます。
本記事では、各痛みの病態における特徴とメカニズムについて解説していきます。
痛みには、生体防御反応、生体への警告信号として働く「急性痛」と痛みが慢性的に続く「慢性疼痛」が存在します。
これらは時期により分類され、発症後1ヶ月〜3ヶ月未満の痛みを「急性痛」、発症後3ヶ月以上持続する痛みを「慢性疼痛」と分類されます。
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慢性疼痛では、痛みの基礎①でも触れていますが、器質的異常や機能のみの問題ではなく、心理社会的要因など目にみえない因子が複雑に関与して痛みを憎悪させていることが明らかとなっている。1)
当サロン会員様のほとんどは急性痛ではなく、慢性疼痛にお悩みの方が多いと思いますので、少しだけ深掘りしていきます。個々のカテゴリーでも詳しく解説致しますので、合わせて拝見していただけますとさらに理解度が進みます。
まず「肩こり/頚部痛」に明確な定義はなく、一般的には中下位頚椎から肩関節に渡る範囲の症状を示し、痛みはもちろん、疲労感、不快感、緊張感、違和感などと表現される。
頚部痛と肩こりは異なる愁訴ではあるが、慢性に経過した頚部痛が肩こりと表現されることもあり、中年期以降では肩関節由来の痛みが含まれることがある。
つまりはじまりは頚部痛であってもそれが慢性化することによって、肩こりにも繋がり、さらに肩関節の痛みがある方も、それが肩こりへと繋がる可能性が非常に高いということを示しています。
そして肩こりの多くが頚部由来の症状であることも報告されています。
ここでも分かる通り、姿勢が悪いから首が痛くなる、姿勢を改善すれ肩こりが良くなるなんていう短絡的で都合の良い解釈は誤りとなります。むしろその「姿勢が悪いから〜」などという誤った認識が症状につながることもエビデンスは示してくれていますので、正しい痛みの理解が自身の症状を緩和させてくれる薬となることも改めてここで認知しておきましょう。
あくまでも痛みを広く包括的に評価する必要があり、単一的でなく多面的なアプローチが必要ということです。
慢性的な痛みがもたらす弊害として、痛みを感じる部位の動きを避けることになります。
そして仕事を休んだり、趣味活動を控えたり気分が落ち込んだりするなど、このような恐怖の回避は、組織の調整をさらに遅らせ、痛みを慢性化させるサイクルを継続させる因子となります。
痛みは、機能的問題と心理社会的要因とが相互に関連しながら、
・侵害受容性疼痛(nociceptive pain)
・神経障害性疼痛(neuropathic pain)
・痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)
の3つの生物学的な疼痛が存在するとされており、各々のメカニズムに基づいた評価・介入を進めていくことが理学療法マネジメントからも推奨されている2)
組織の損傷、損傷が起こり得る強い刺激を生体に対する侵害刺激といい、侵害刺激によって生じる痛みを侵害受容性疼痛と言います。
転んだり、切られたり、ぶつけたりしたら痛いと感じますが、それを侵害受容性疼痛といった認識で問題ないです。
侵害受容性疼痛は末梢で起こる反応です、末梢遠位端の自由神経終末(侵害受容器)の活性化で起こります。
侵害刺激でも2種の異なる刺激が存在します。
・Aδ繊維「fast pain」:(鋭く早い痛み)
・C繊維「slow pain」:(鈍くて遅い痛み)
※Aδ繊維やC繊維は皮膚、筋、筋膜、関節、骨、内臓、血管に至るまで全身に広く分布しています。
侵害受容性疼痛は転んだり切られたりするものと表現しましたが、もっとミクロに専門的に説明すると
Aδ繊維は主に機械的な侵害刺激を受容し、C繊維は機械的な刺激に加え、熱、冷刺激、炎症時に組織で産生されるプロスタグランジン、ブラジキニンなど(発痛物質)と多様性な侵害刺激を受容するポリモーダル受容器です。
つまり
・切り傷
・骨折
・挫傷
・炎症
・内臓の痛み
・関節の痛み
・術後の痛み
など全てが侵害受容性疼痛に分類されるもの、すなわち侵害受容器が活性化されて起こる痛みということです。
筋肉はC繊維だから鈍く痛みを感じ、皮膚はAδ繊維だから鋭く早い痛みを感じます。
侵害受容器への情報は脊髄へ伝え、視床など脳の複数部位(大脳皮質やその内側に位置する辺縁系など)に伝わります。
三次侵害ニューロンにて大脳皮質の内側にある辺縁系にも痛みは影響されます。
これがどう言うことかというと、辺縁系には痛みの情動・認知面に関与すると考えられていることから、痛いと感じればそれは情動・認知面にも影響を与えてしまうと言うことになります。
そして痛覚は他の体性感覚とは異なり、順応という概念そのものが存在しません。
それは痛みに慣れてしまえば、より大きな障害、怪我に繋がりますので、痛みというものは体に今の状態から抜け出すように指示を出す役割であることの裏付け、あらわれということになります。
神経障害性疼痛は、「痛覚の伝導路が体性感覚神経の病変や疾患によって起こる痛み」と定義され、侵害受容性疼痛が感覚神経末端の自由神経終末(侵害受容器)の有害刺激により痛みが伴うのに対し、神経組織そのものの傷害や病変により引き起こされます。
例)脳卒中、血管炎、糖尿病、細菌・ウイルス感染や自己免疫疾患など
要はぶつけてないけど上記のような疾患が原因で痛みの伝導路にエラーが生じて「痛い」といった現象が生じています。
ここでも神経の損傷部位によって、2種類に分類されています。
末梢神経障害性疼痛:末梢神経のエラー
中枢神経障害性疼痛:脊髄より上位の痛覚伝導路のエラー
Nociplasticとは、"nociceptive plasticity"からなる造語であり、「侵害受容器を活性化するような損傷やその危険性のある明確な組織損傷、あるいは体性感覚神経系の病変や疾患がないにも関わらず、痛みの知覚異常・過敏により生じる疼痛」と定義されています。
つまり、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛では説明できない痛みを「痛覚変調性疼痛」と呼び、これは痛みの伝導路の可塑的な変化によって起こるとされています。
繊維筋痛症、非特異的な慢性腰痛、過敏性腸症候群など機能性の内臓痛がこれに属します。
これは痛みの基礎①でも記載した通り、2016年に国際疼痛学会(IASP)で新たに提唱された概念であり、内容は以下の通りです
「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実質的な組織損傷、または損傷の可能性のある事象の明確な証拠がないにもかかわらず、あるいは痛みを引き起こす体性感覚系の病変や傷害の証拠がないにもかかわらず、侵害受容の変貌によって引き起こされる痛み」
ざっくりいうと、特に原因は見当たらないけど…痛いと感じるよってことが述べられています。
専門的に言うと、断続的な刺激が繰り返し起こることによって痛覚(神経系)の可塑的変化により知覚異常、過敏になることを意味します。
🗒可塑的変化とは?
物質に力を加えて変形させ、力を取り除いた後も変形したまま保持される性質のことであり、すなわち神経が繰り返し刺激され続けることで歪んだ状態が元に戻らなくなってる状態になります。(神経の伝達の可塑的変化)
侵害受容性疼痛(組織の損傷)が治癒していたとしても、痛みを感じてしまうという現象が起こるということを意味し、これが国際的に認められているわけです。
そして断続的に侵害刺激が加わり続けるとどうなるでしょうか?
感作についても合わせて理解すると、Nociplastic Painについてより頭にスッと入ってくると思いますので合わせて理解しておきましょう!
感作とは、正常な入力に対する侵害受容ニューロンの亢進した反応性、および通常閾値以下の入力に対して反応する状態
つまりこれをわかりやすく伝えると、本来よりも痛みの閾値が低下している状態(痛みが感じやすい)ということ。
この感作にも2パターンあり末梢性感作、中枢性感作に分類されます。
痛み刺激が加わると、自由終末に存在するセンサー蛋白が活性化し、脊髄へと電動します。
組織損傷前に比べて同程度の刺激(熱性、機械的)に対して過剰に反応するようになります。
つまり「本来より痛みを感じやすく(敏感)なっている状態」を指し、それが中枢で起きているのか末梢で起きているのかということです。3)
●末梢性感作
受容野の刺激に対する末梢侵害受容ニューロンの反応性の亢進と閾値が低下した状態
●中枢性感作
正常あるいは閾値以下の求心性入力に対して示す中枢神経系の侵害受容ニューロンの亢進した反応性
ここで分かることは急性疼痛のコントロールは大切だし、徒手療法、運動療法においても痛みの出るものはペインサイエンスの観点からNGということです、なぜなら、中枢性感作を引き起こし、より痛みのコントロールが難しく、慢性化する恐れが考えられるからです。
1)松原貴子:疼痛理学療法の診療トピックス.理学療法学,40(8),519-522, 2013
2)Chimenti RL, Frey-Law LA, Sluka KA. A Mechanism-Based Approach to Physical Therapist Management of Pain. Phys Ther. 2018 May 1;98(5):302-314.
3)国際疼痛学会 痛み用語 2011版リスト(日本ペインクリニック学会用語委員会翻訳)