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グローバル筋とローカル筋
脊柱の筋機能を2つに分類すると、
グローバル筋:表層筋
ローカル筋 :深層筋
に分けることができます。
グローバル筋
腹直筋や脊柱起立筋が該当し、主に速筋繊維で構成されており、瞬発的な身体活動を行う場合に、優位に働く筋です。
脊柱全体に付着しているため、脊柱の分節間の動きを制御すること(細かな動きのコントロール)に適しておらず、また持続的な収縮は苦手となる。
ローカル筋
腹横筋、多裂筋群が該当し、主に遅筋繊維で構成されており、持続的な収縮を得意とします。
静的な姿勢保持など、過度な筋出力を必要としない環境において常に働いている筋群となります。
多裂筋は脊椎の分節間に付着していることから、脊柱の分節運動の制御や外部からの刺激(外乱)に対し筋緊張を変化し適応する能力を担っており、また固有受容器も豊富1)なことから、腰椎をコントロールする際の主動筋となることが考えられます。
腰椎の安定性
腰椎の安定性が向上することは、間違いなく腰椎周囲の負担を軽減し、非特異的腰痛の改善に有効となりますが、安定性とはただ腹筋を強化し、体幹部を固めるような事ではございません。
Hodgesらによる「健常者には上肢を挙上する直前に反射的に腹横筋、多裂筋といったローカル筋群が働き、腰痛患者においては、上肢の挙上時のローカル筋群の反応の遅延、もしくは消失する」といった有名な研究報告があります。2)
しかし一方で「腰痛患者は上肢挙上の直前にローカル筋群、グローバル筋群の過度な収縮が生じてしまっており、それが疼痛の原因になっている」といった逆の研究報告もあります。3)
一見矛盾しているように感じる両者の研究ですが、どちらにおいても共通しているのが、「四肢の動きに伴い腰部の安定性に寄与する筋群を適切に制御できていない」状態にある事です。
前者のようにローカル筋群の反応が悪いのも、腰椎の不安定性から痛みに繋がり、後者のように過度に腹筋や脊柱起立筋群などの剛性を高めることもまた脊柱の動きを止めてしまい、痛みに繋がってしまうことになります。
上記の論文からみても基本的に、体幹部を固めるためのアプローチは推奨できません。
非特異的腰痛の運動療法にて、腹筋群を固めるような剛性を高めるブレーシング(bracing)エクササイズ4)を学習させることは逆効果となり、行うべきは過度に収縮してしまっているグローバル筋群を抑制し、脊椎分節運動の学習、すなわちローカル筋群の活性/再学習がメインとなります。
参考文献
1)clinical anatomy of the lumbar spine and sacrum 3rd Edition (Bogduk N),Churchill Livingstone,1997
2)Hodges PW, Richardson CA. Feedforward contraction of transversus abdominis is not influenced by the direction of arm movement. Exp Brain Res. 1997 Apr;114(2):362-70.
3)Gubler D, Mannion AF, Schenk P, Gorelick M, Helbling D, Gerber H, Toma V, Sprott H. Ultrasound tissue Doppler imaging reveals no delay in abdominal muscle feed-forward activity during rapid arm movements in patients with chronic low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 2010 Jul 15;35(16):1506-13.
4)Urquhart DM, Hodges PW, Allen TJ, Story IH. Abdominal muscle recruitment during a range of voluntary exercises. Man Ther. 2005 May;10(2):144-53.