・痛いから伸ばす
・痛いから運動する
・痛いからほぐす
・痛いから安静にする
・痛いから冷やす
・痛いからマッサージする
なんとなくで行っていませんか?
特に慢性疼痛に対して「痛みの科学」の正しい理解がなければ、狙って改善することは極めて困難なことです。
いつだってそうですが、何事も土台から本質的に理解していくことが大切なことです。
「痛み」ってなに?
「痛み」とは?
説明できるように咀嚼することが最も「痛みの改善」に有用なことです。
はじめに
厚生労働省が公表している『2019年 国民生活基礎調査の概況』1)の「有訴者率の上位5症状」では、男女ともに腰痛・肩こり・手足の関節痛といった痛み関連の症状で悩んでいる国民が多いことが記されています。
特に慢性疼痛の羅患率は、13.4〜26.4%と報告されています。2)
痛みに関する教育はリハビリの専門家である理学療法士養成機関のカリキュラムに組み込まれているものの、費やす時間は非常に少ないのが現状であり3)、これが日本の慢性疼痛の羅患率にそのまま現れているのではないかと考えられる。
こちらでは国際疼痛学会(IASP:international association for the study of pain)から理学療法士育成のために示された教育カリキュラム
・痛みの多面性
・痛みの評価
・痛みのマネジメント
・痛みの臨床
を踏まえたうえで、痛みの評価と介入を一般の方でも分かるよう、解説していきます。
痛みの定義
痛みは、1979年にIASPによって「実質的あるいは潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはそのような損傷を表す言葉を使って表現される不快な感覚・情動体験」と定義されていました。
しかし欧米先進各国で痛みの研究が飛躍的に進歩した背景もあり、この定義が2020年に41年ぶりにこのように改訂されました。4)
これだけだといまいちピンとこない方も多いはず。
ではさらに6項目の付記も踏まえて、新しい痛みの定義で何が変化しているかみていきましょう。
特に着目したい項目が、「痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな影響を受ける」ということ。つまり従来では痛みは感覚的側面のみに着目されていましたが、改訂後の近年では痛みには多面的な因子が関連していることを報告しています。5)
もっと噛み砕いて説明すると、痛みは主観であり、他人が客観的に評価できるものではなく、その人が痛ければ痛いのであって、痛くなければ痛みはなく、組織に損傷がなくても痛みを感じていればそこに痛みは存在し、様々な因子が影響しうるといったことが書かれています。
痛みとは組織的な損傷だけで判断することはできないことは明らかで、心理的、社会的側面を考慮した生物社会心理モデルで「痛み」を捉えた包括的なアプローチが重要視されています。
痛みの概念
前述の通り、痛みは従来の感覚的側面のみならず情動や認知、心理社会的などといった多様な側面から生じている症状です。
代表的な慢性疼痛である、「腰痛」で例えても、「椎間板性腰痛」「椎間関節性腰痛」「筋筋膜性腰痛」など聞いたことがあると思いますが、そのような構造的に正常から逸脱した組織と非特異的腰痛との関連性は低く、事実、多くの慢性痛が生じていない人でも椎間板や椎間関節の変形が認められています。6)
つまり痛みを訴えている局所以外にも着目した包括的な評価・介入が重要であることを示していることになる。
特に慢性疼痛では、痛みそのものよりも痛みに伴う、苦悩や行動の方が様々な障害となっていることが多く、生物心理社会的モデルで痛みを捉えていく意義がある。
参考文献
1)厚生労働省:2019年 国民生活基礎調査の概況,2020.
2)矢吹省司:疫学 疼痛医学(田口敏彦 ほか監),p18~23,医学書院,2020.
3)沖田実:疼痛理学療法の教育トピックス,理学療法学,40(8):508~512, 2013.
4)Raja SN, Carr DB, Cohen M, Finnerup NB, Flor H, Gibson S, Keefe FJ, Mogil JS, Ringkamp M, Sluka KA, Song XJ, Stevens B, Sullivan MD, Tutelman PR, Ushida T, Vader K. The revised International
Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises. Pain. 2020 Sep 1;161(9):1976-1982.
5)Bingel U,et al :Imaging CNC modulation of pain in humans.Physiology,23:371-380.2008.
6) Nakashima H, Yukawa Y, Suda K, Yamagata M, Ueta T, Kato F. Abnormal findings on magnetic resonance images of the cervical spines in 1211 asymptomatic subjects. Spine (Phila Pa 1976). 2015 Mar 15;40(6):392-8.